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コラム
2017.06.17 Vol.5 「プロブレムリスト」と「リスクリスト」 (治療計画の重要性3)
患者さまのお口の状態を診察し、「現在の症状」をくまなく網羅した情報のことを、私たち歯科医師の間では「プロブレムリスト」と呼んでいます。
上の図は学会で実際に使用した「プロブレムリスト」を紹介するスライドなので、専門用語ばかりになってしまっていますが、このスライドには現在の歯や骨の状態・歯並び・歯を失った原因などが網羅的に書かれているとご理解ください。
治療計画を立てるにあたっては、もちろんこの「プロブレムリスト」も大切ですが、もうひとつ、生涯を見据えた治療計画を立てる上で欠かすことのできない情報があります。それは、歯科医師による治療で改善できる点、改善することが難しい点をリストアップした「リスクリスト」です。
例えば、歯の欠損にお悩みの方が、どうして歯を失ったのかを突き止めると、その理由が「力:ちから(歯ぎしり・食いしばりなど)」であるケースがたくさんあります(参考までに、歯を失う原因は、事故などで失う場合を除くと、「むし歯」、「歯周病」「力:ちから(歯ぎしり・食いしばりなど)」の3つのどれかに行き着きます)。
しかし、「力:ちから(歯ぎしり・くいしばりなど)」は、その多寡や強弱に個人差はあるものの、誰もが行う行為であり、私たち歯科医師が完全にコントロールすることができません。また、患者さまが目で見ることができるむし歯とは違い、力は目に見えないため、患者さまにご理解いただくことが難しい部分でもあります。このような力という要素も、将来歯を失ってしまう潜在的なリスク要素になるのです。
特に、上顎の骨格のアーチサイズに対して下顎の骨格のアーチサイズが非常にワイドで大きく、なおかつ下顎が上顎を突き上げる力が非常に強い患者さまもいらっしゃいます。しかし、上顎や下顎の大きさ、そして突き上げる過大な力も、残念ながら私たちには変えることができない潜在的なリスク要素です。
このように、私たち歯科医師が変えることができず、将来的に歯を失う可能性を秘めた要素を網羅したものが「リスクリスト」です。
では、なぜ治療計画を立てるにあたって、リスクリストが必要なのでしょうか。
その理由は、潜在的リスクを考慮した治療計画を立てることはもちろんですが、もう一つ、インプラント治療後のトラブルを回避する側面もあります。
実は、先ほどからご説明している歯ぎしりやくいしばり、すなわち力は、インプラント治療後のトラブルの大きな原因でもあるのです。例えば、激しい歯ぎしりにより、歯の磨耗が確認できる患者さまにインプラント治療を行なう場合、その後も続く歯ぎしりにより、天然歯はさらに磨耗していきます。しかし、インプラントに装着したセラミックは天然歯のように磨耗しないため、力のしわ寄せがインプラントに集中し、セラミックが取れたり、割れたりするリスクが残ります。
それゆえ当院では、インプラント治療を行う前には詳細にリスクリストを作成し、治療計画を作成する時点で患者さまに起こりうるリスクを十分にご説明することはもちろん、そのリスクを最大限防ぐために必要なこと(ナイトガードを装着していただいたり、日中の食いしばり、はぎしりを意識してやめていただくなど)をお伝えするようにしています。
このとおり、インプラント治療は「治療を終えてしっかり噛めるようになったら一生安泰」というものではありません。しっかりと治療をして「ガチッ」と噛めるように回復したとしても、患者さまの持つ潜在的なリスクによって、再び歯を失ってしまうリスクは残っています。
治療の後、「こんなはずじゃなかった」という結果にならないために、リスクリストをもとにインプラント治療後のリスクを十分にご説明し、患者さまにご自身のリスクをしっかりとご理解いただく。当院では、生涯を見据えた健全な咀嚼を維持するため、このようなステップを踏まえた治療計画を作成しています。