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コラム
2016.02.15 老後を見据えたインプラント
「Quality of death : クオリティ・オブ・デス」を考える
「Quality of life(QOL) : クオリティ・オブ・ライフ」を考えることは既に一般的になっていますが、私たちが歯の治療方針を検討する際には、これに加え、「Quality of death(QOD) : クオリティ・オブ・デス」についても真剣に考えています。
日本は超高齢化社会を迎えました。65歳以上人口が全人口の21%を超えたのは、世界を見渡しても日本だけです。これに伴い、寝たきりの方の人口も増加しています。
80歳を超えて、最期までピンピンとした⽣活を送れるのか、それとも要介護となり、施設や周囲のお世話になって最期を迎えるのか。これが「Quality of death(QOD) : クオリティ・オブ・デス」です。
老人ホームや施設では、歯が無い寝たきりの人は、グミ状の食事で栄養分を摂取するようになります。この状況では、再びベッドから立ち上がるのは難しいのが実情です。しかし、自分で咀嚼して食事を摂ることができると、平衡感覚を保て、脳の血流も良くなります。寝たきりの人が再び噛めるようになったことで、再び歩くことができるようになったケースも実在します。
このようなことから、「人間の本当の尊重」と「人間にとって歯とは何か」を考えると、「最期まで⾃分の顎を使ってごはんを食べられること」であると私たちは考えています。自分の顎でしっかり噛んでごはんを食べられる以上は、人間の威厳と尊厳は守ることができます。そのためには、生涯を通じた健康な咀嚼が何よりも大切なのです。
人間は必ず歳を重ねていきます。80歳になったときに健康・ハツラツで自律した生活ができるよう、今からしっかり準備をしていきましょう。
要介護の現場とインプラント
患者さまの年齢が若いにも関わらず、歯周病によってほとんどの歯が骨に引っかかっていない場合には、即座にインプラントを行うのではなく、保存療法などによって、患者さま自身の歯で噛める時間を出来る限り引き延ばすケースが数多くあります。
しかし、例えばこれが60歳の患者さまで、65歳まであと5年という方であれば話は違います。60歳から何年もかけて歯の保存療法を行っても、年齢を考えると、結局それが駄目になってしまう可能性も高いのです。
保存療法を行ったものの、70歳後半でそれ以上自分の歯を残すことが難しくなった場合、そこから再度噛める状況をつくるのは難しいことです。このような理由から、高齢の患者さまに対しては、生涯を通じた健全な咀嚼を実現するため、インプラントは早い段階から積極的に検討する選択肢になります。
また、要介護になったときに、口腔の清掃状態も唾液の分泌も低下すると虫歯になりやすいリスクがあります。しかし、65歳を前にインプラント治療を行えば、その後は歯周病のリスクはあるものの、インプラントにした歯が虫歯になることは絶対にありません。
このように、介護の現場まで考えると、インプラントを選択することは決して悪ではありません。「自分の歯を残したい」、その気持ちは痛いほどよくわかりますが、実際の要介護の現場では、インプラントのほうが扱いやすい事実もあるのです。
リムーバーによる取り外し
ただ、複雑な構造のインプラントでは、介護者では外すことが難しかったり、磨き方がわからないなどの問題が生じます。そこで当院では、AGCブリッジによるインプラントを提案しています。AGCブリッジは完全固定式ではないので、術者がリムーバーという器具を用いることで比較的簡単に外すことができます。
また当院では、1本も歯がない患者さまにインプラント治療を行う場合、上下それぞれ6本のインプラントで咀嚼を回復させることも可能です。
1本も歯がない場合には、インプラントを打つ本数がもっと多いケースをよく目にします。確かに力学的には有利といえますが、大切なことは、本当に必要な本数で治療することです。それゆえ、噛む力や骨の質・量によって異なりますが、当院では6本をひとつの目安にしています。さらにAGCブリッジなので外すこともでき、非常にシンプルです。
冒頭の通り、現在では「Quality of death : クオリティ・オブ・デス」を考えた治療が求められる時代に来ています。それを見据えた目標は、高齢者ひとりひとりが、最期を迎えるまでしっかりと噛めて、健康に暮らし、適度な運動も出来て、子供や施設のお世話にならず、いつまでも社会に貢献し、自分で自立した生活を送ることです。これは、国の方針でもあり、医療費の削減にも繋がります。
とはいえ現実には、高齢になれば脳梗塞などのリスクも上がります。大切なことは、もしも寝たきりになってしまった時にはどうするのか、というところまでしっかりと考えて治療することなのです。